Lee 91-J カバーオール徹底解説:ワークウェアの頂点に君臨する名作のすべて

アメリカのワークウェア史を語る上で、避けては通れない傑作が存在します。それが、Lee(リー)のカバーオール「91-J」です。リーバイスのデニムジャケットが「ファッション」としての地位を早くから確立したのに対し、Leeの91-Jは、あくまで「働く男のための道具」としての完成度を追求し続けました。

鉄道員、農夫、建設作業員。過酷な現場で愛され続けたこの一着は、なぜ時代を超えて現代のファッションシーンでも「究極のカバーオール」と称されるのか。そのディテールの変遷から、年代判別の方法、そして現行品にはないヴィンテージ特有の魅力まで詳説します。


1. 91-Jの誕生と「ハウスマーク」の時代

Leeがカバーオールの生産を開始したのは1920年代に遡ります。当初から鉄道作業員向けのウェアに力を入れていたLeeは、機能性と耐久性を両立させた数々の名作を生み出しました。その中でも、1928年頃に登場したとされる「91-J」は、同社の看板モデルとなりました。

初期の91-Jを象徴するのが、通称「ハウスマーク」と呼ばれるタグです。家の中にLeeの文字が配されたこのデザインは、1940年代半ばまで使用されました。ハウスマーク時代の91-Jは、生地の質感、縫製の丁寧さ、そして何より歴史的重みが別格です。この時代の個体は現在、ヴィンテージ市場では博物館級の扱いを受け、数十万円から、状態によってはそれ以上の価格で取引されることも珍しくありません。


2. 91-Jを形作る「ジェルトデニム」の秘密

91-Jを語る上で欠かせないのが、Leeが独自に開発した「ジェルトデニム(JELT DENIM)」です。

1925年に採用されたこの生地は、通常のデニムよりも糸の撚りを強くし、織りの密度を高めることで、約11.5オンスという比較的軽量な厚みでありながら、13オンスクラスの強度を持たせることに成功しました。

なぜ軽さと強度の両立が必要だったのか。それは、カバーオールが「服の上から羽織る作業着」だったからです。重すぎては作業の邪魔になり、弱すぎてはすぐに破れてしまう。ジェルトデニムは、その矛盾する要求に対するLeeの回答でした。

ジェルトデニム特有の「左綾(レフトハンドツイル)」による、しなやかで縦落ちの強い色落ちは、長年着込んだ個体において芸術的な表情を見せます。この独特のフェード感こそが、多くのコレクターを虜にする最大の要因です。


3. 年代を見極めるためのディテール変遷

91-Jは、生産時期によって細かい仕様が変更されています。これを知ることで、目の前の一着がどの時代のものかを特定できます。

ボタンの変遷:首振りとロングL

最も分かりやすいのがボタンです。1940年代頃までのボタンは、首が左右に動く「首振りボタン」が採用されていました。また、ボタンの「Lee」の文字の「L」が長く伸びている、通称「ロングL」の仕様は、1960年代頃までのヴィンテージを見極める重要なポイントです。

ポケットの形状と補強

91-Jには4つの大きなポケットが配置されていますが、左胸のポケットには鉄道時計を入れるための懐中時計用ポケットと、ペン差しが備わっています。この「ウォッチポケット」の仕様は、鉄道員の制服としての誇りを感じさせます。また、ポケットの角を補強する「カンヌキ(バータック)」の色も、年代によって緑色であったり、黒であったりと変化します。

タグの変遷:赤タグから三角タグへ

ハウスマークが消えた後の1950年代は、赤い文字でLeeが描かれた「赤タグ」の時代です。その後、1960年代には「三角タグ」と呼ばれる形状になり、1970年代以降はより現代的なタグへと簡素化されていきます。また、タグに記載された「JELT DENIM」や「SANFORIZED(防縮加工)」の表記の有無も、年代判別の重要な手がかりとなります。


4. 鉄道員に愛された「レイルロード・ウェア」としての誇り

91-Jがなぜこれほどまでに堅牢に作られたのか。その背景には、アメリカの発展を支えた鉄道網の存在があります。

当時の鉄道員は、蒸気機関車の煤煙や油汚れ、そして激しい肉体労働にさらされていました。Leeは彼らのために、動きやすさを確保する背中のアクションプリーツや、袖口を調節できるカフスの仕様など、現場の声を反映した改良を重ねました。

91-Jの「J」は「Jumper」を意味しますが、これは単なる上着ではなく、プロフェッショナルが命を預けるギアであったことを示しています。その信頼性が、結果として「カバーオールといえばLeeの91-J」という不動の評価を築き上げたのです。


5. 現代における91-Jの着こなしと市場価値

現代において、91-Jはアメカジスタイルの定番アイテムとして定着しています。しかし、その市場価値は近年、かつてないほど高騰しています。

1970年代以前のアメリカ製モデルは、もはや供給が絶たれた絶滅危惧種です。特に日本人体型に合うサイズ(34や36といった小さめのサイズ)は、アメリカでも枯渇しており、争奪戦となっています。

もし、古着屋で状態の良い91-Jを見かけたら、それは一つの「出会い」です。ボロボロになったダメージ品であっても、それが長年の労働によって刻まれた「本物の表情」であれば、リペアを施して着続ける価値があります。


6. まとめ:91-Jという永遠のマスターピース

Leeの91-Jカバーオールは、単なる古い服ではありません。それは、アメリカが最も活気に満ち、物作りに対して誠実であった時代の遺産です。

ジェルトデニムのしなやかさ、三本針(トリプルステッチ)による強固な縫製、そして過不足のない美しいデザイン。袖を通した瞬間に感じる、重厚ながらも包み込まれるような着心地は、現行の大量生産品では決して味わうことができません。

知識を身につけ、ディテールを観察し、自分だけの一着を探し出す。その過程こそが、古着を愛でる醍醐味です。91-Jは、あなたが人生を共に歩むにつれて、さらにその魅力を増し、かけがえのないパートナーとなってくれることでしょう。

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