デニムの世界において、リーバイスと並び称される巨頭、Lee(リー)。しかし、その魅力はリーバイスとは全く異なるベクトルにあります。リーバイスがゴールドラッシュに沸くサンフランシスコで炭鉱夫の道具として進化したのに対し、Leeはカンザスというアメリカの中央部で、食品卸売業からスタートし、農夫や鉄道員、そしてカウボーイといった特定の労働者たちの声を徹底的に反映させることで、独自の進化を遂げました。
古着市場においてLeeの存在が特別なのは、その圧倒的な機能美と、現代のファッションにも通ずる洗練されたシルエットにあります。本記事では、Leeの古着を愛するすべての人へ向けて、その歴史的背景から、一目で年代を見分けるためのディテール、そしてLee特有の生地が生む至高の色落ちについて詳説します。
1. Lee古着の魂:左綾(レフトハンドツイル)の科学と色落ち
Leeの古着を語る上で、まず理解しなければならないのが「左綾デニム」です。1924年にLeeが開発したこの織り方は、それまでのデニムの常識を覆しました。
通常、デニム生地は右上から左下に向かって織り目が流れる「右綾(ライトハンドツイル)」が一般的です。これは糸の撚り(より)方向と逆向きに織られるため、生地が締まり、硬く頑丈になるのが特徴です。しかし、Leeはあえて糸の撚り方向と同じ向きに織る「左綾」を採用しました。
左綾には主に二つの大きなメリットがあります。一つは、生地が驚くほど柔らかく、体に馴染みやすいこと。これは過酷な動きを要求されるカウボーイや鉄道員にとって、疲労を軽減する極めて重要な要素でした。もう一つは、色落ちの美しさです。左綾は表面が平滑になりやすく、摩擦によって糸の芯まで白く抜ける「縦落ち」が顕著に現れます。ヴィンテージのLeeに見られる、まるで雨が降っているかのようなシャープで美しい線状の色落ちは、この左綾が生み出した芸術なのです。
2. 鉄道員を支えた名作:91-Jとジェルトデニム
Leeの古着の中でも、カバーオール「91-J」は特別な地位にあります。鉄道員(レイルロードマン)向けに開発されたこのモデルには、Leeの技術の粋が詰まっています。
特筆すべきは、1925年に開発された「ジェルトデニム(JELT DENIM)」です。作業着をより動きやすくするために、11.5オンスという軽量な生地でありながら、織り密度を極限まで高めることで、13オンス以上の強度を持たせたこの生地は、当時の労働者たちから絶大な信頼を得ました。
91-Jのディテールには、鉄道員のための工夫が随所に散りばめられています。懐中時計を収めるための専用ポケット、グローブをしたままでも開閉しやすい大型のボタン、そしてトリプルステッチ(三本針)による強固な縫製。これらは現代のファッションにおいても、武骨で機能的なデザインとして高く評価されています。古着屋で91-Jを探す際は、タグにある「JELT DENIM」の文字や、ボタンの形状を確認することで、その個体が持つ物語を読み解くことができます。
3. カウボーイの正装:101ライダースとウエスターナー
Leeが1920年代に発表した「カウボーイ・パンツ(後の101)」は、馬に乗る男たちのための究極のユニフォームでした。
101ライダースの革新
101は、カウボーイの激しい動きに耐えるため、股下をリベットではなく糸による補強(カンヌキ)に置き換えました。これは、リベットが馬の鞍を傷つけてしまうのを防ぐための配慮です。また、1926年には世界で初めてジッパーフライをジーンズに採用した「101Z」をリリースしました。手袋をしたままでも着脱を容易にするジッパーの採用は、実用性を重んじるLeeの姿勢を象徴しています。
ウエスターナーという革命
1959年に登場した「ウエスターナー」も、古着市場では欠かせない存在です。白いコットンサテン地を使用したこのモデルは、カウボーイがドレスアップするための服として大流行しました。汚れが目立ちやすいはずの白をあえて採用したのは、それが「カウボーイの誇り」を示すものだったからです。現在の古着市場でも、ヴィンテージのウエスターナーは、その上品な光沢感と堅牢さから、コレクターズアイテムとして不動の人気を誇っています。
4. 年代判別の極意:タグ、ボタン、ピスネームの変遷
Leeの古着を鑑定し、その価値を正しく判断するためには、細部の変更を追う必要があります。
タグのデザインから年代を絞り込む
- ハウスマーク(1920年代〜40年代):タグに家のイラストが入る。初期のヴィンテージを象徴する希少タグ。
- 赤タグ(1940年代〜50年代):赤い文字でLeeが描かれる。文字が斜めになっている「斜めe」はより古い時代の証。
- 黒タグ(1950年代〜60年代):黒地に黄色い刺繍が入る。中心にあるセンタータグから、サイドに配置されるサイドタグへと移行。
- MR表記の有無(1970年代以降):ブランドロゴの横に「MR(商標登録マーク)」が入ると、1970年代以降の生産である可能性が高まります。
ピスネームの変化
バックポケットの縁に付く小さなラベル(ピスネーム)も重要なヒントです。 1960年代頃までは、ロゴに「R」や「MR」の表記がなく、シンプルなLeeの文字のみが並びます。その後、1960年代後半にRマーク、70年代にMRマークが追加されていきます。
5. ストームライダー:冬の古着のアイコン
デニムジャケットにブランケットの裏地を付けた「ストームライダー」は、冬の古着の定番です。襟にコーデュロイを採用したそのスタイルは、マリリン・モンローなどの著名人に愛されたことでも知られています。
ストームライダーの魅力は、防寒性だけでなく、着用することでブランケットの模様が表のデニムに浮き出てくるような独特のアタリにあります。年代によってブランケットの柄(ボーダーの配色など)が異なるため、好みのパターンを探すのも古着探しの醍醐味です。
6. まとめ:Leeの古着を選ぶということ
Leeの古着を手に取るということは、単なる中古品を買うことではありません。それは、アメリカの労働者たちが何を求め、Leeがそれにどう応えてきたかという歴史を身に纏うことです。
左綾が生むしなやかな履き心地、ジェルトデニムのタフさ、カウボーイのための丸みを帯びたポケット。それら全てのディテールに、一貫した哲学が流れています。リーバイスのような荒々しさはないかもしれませんが、Leeにはそれを超える洗練と、使い手を想う誠実さがあります。

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